機械式時計のクオリティーのひとつに、「仕上げ」があります。それは、外観のデザインや時刻の精度とは別に、機械式時計を鑑賞する楽しみを与えてくれます。例えば、下の写真はどちらもETA社のクロノグラフ、キャリバー7750ですが、仕上げに大きな違いがあることがわかります。
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| ノーマルなムーブメント | 美しい仕上げとパラジウムメッキがほどこされたムーブメント | 
こうした装飾のひとつひとつは、長い歴史のあるスイス時計の伝統なのです。
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| 文字盤に映えるブルーの針 | 丸穴車、コハゼ、ブリッジを固定する青ネジ | 
ブルースチールとは、鋼を焼き入れし青みを定着させたものです。ポリッシュすることで、美しい深みのある色合いが出ます。
メッキよりも錆びにくいという特徴があり、針やネジに用いられます。
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| 自動巻き用のローター | ブリッジ全面に施された美しい波形 | 
ジュネーブ波形とも呼ばれる美しい縞模様。ペルラージュ仕上げと並ぶ伝統的仕上げ。ムーブメントのブリッジ、自動巻きのローター等、広い金属面に施されます。
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| 時計ケースの裏側 | 地板 | 
時計ケースの内壁や、ムーブメントの地板(プレート)のうろこ状の模様。
時計の顔でもある文字盤には、現在様々なデザインがありますが、実は伝統的な仕上げも残っています。
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| ブルースチール針、ギョーシェ彫り | ギョーシェ彫りとブルースチールのブレゲ・ハンド | |
文字盤に施される細かい彫り模様は、ギューシェ模様あるいはギロッシェともいい、今から200年前にブレゲが考案したといわれています。 光の反射を防止する役目もありました。また、周囲がラウンドしたカーブ文字盤はアンティーク時計に見られる特徴で、当時は時計を薄くするための手法でした。
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| カーブ文字盤とアップライト・インデックス | ブレゲ・ハンドとポーセリン・ダイヤル | 
文字盤の素材には、深い光沢のあるエナメルや透明感の陶製のものが、古くから用いられていました。 割れやすく強度がないことから採用されることはほとんどないですが、今でも一部のアニバーサリーモデルに採用されることもあります。
先端に穴の開いた針はブレゲが考案したデザインで、クラシカルな時計の定番となっています。
こうしたデザインは、現代的なロレックスやオメガ等のスポーツウォッチには見られませんが、今でもスイス時計の定番、基本スタイルとして、高級ブランドの作る時計に受け継がれているのです。一見スタイリッシュに見えるカルティエはこうした伝統を上手に取り入れていると思います。
ベゼルやケースサイド、リューズに刻まれる細かい節目模様を、コインの周囲のギザギザに似ていることからコインエッジといいます。文字盤デザインを引き立てる伝統的な装飾です。
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| コインエッジ | コインエッジ | コインエッジ | 
オニオン型リューズは、懐中時計のリューズをイメージさせます。
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| コインエッジとオニオン型リューズ | オニオン型リューズ | 
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| エングレービング | スワンネック緩急針とチラネジ付きテンプ | 
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| ビス留めゴールドシャトン | ブレゲ巻上げヒゲゼンマイ | 
他にも様々な仕上げがあります。 ブリッジを研磨し面取りを施すアングラージュ、丸穴車や角穴車に施す渦巻き模様サンバースト仕上げ、ムーブメント全体に鮮やかな光沢をもたせるロジウム・メッキ、 模様やブランド名を彫りこむエングレービング等があります。
また、昔は時計の精度を高めるために付けられた様々な機能も、工作技術が進んだ現在では装飾的な意味合いが強く、伝統的な作りにこだわる高級ブランドの時計に見られます。 ブレゲ巻上げヒゲ、ビス留めのシャトン、スワンネック緩急針、チラネジと呼ばれるマイクロアジャストスクリュー等がその例です。
機械式時計の魅力の1つでもある仕上げについて、ざっと代表的なものを挙げてみました。アンティークで見られる変わった仕上げや高級時計に用いられる装飾など、随時アップデイトしていく予定です。