現代の時計とはまったく異なるデザインと手作りの温もりがあるアンティーク時計。ここでは、50年前のクロノグラフを当時のクラシックな雰囲気をそのままによみがえらせます。
素材は、オークションで200ドル(送料込み)で入手した無名のブランドです。値段どおり、金メッキも剥げ、サビやキズも目立ち、動作も不安定です。なぜか矢印型の分積算計の針が秒針側に付いていてます。しかし、ムーブメントはピラーホイール(コラム・ホイール)を採用したバルジュー社の傑作キャリバー23です。
【注意事項】
あくまで趣味として公開しており、決して専門的な技術レベルではございません。日常的な使用範囲を超えた行為ですので、お使いの腕時計の修理、調整は専門の時計修理業者にご依頼ください。万一ご自身で行う場合は自己責任でお願いします。
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【仕様】
CALVY EB Suisse (スイス)/GPケース/径37mm/厚14mm/手巻き/Valjoux 23/17石/18,000振動/エクステンションベルト
ケースを分解し、文字盤、針、ムーブメントを取り外します。
ベゼルの取り外しイール |
針の取り外し |
巻き真、リューズの取り外し |
ムーブメントは表の文字盤と裏からのネジで固定されています。
青色:ムーブメントをケースに固定するネジ |
風防、ベゼル、ケース、裏蓋、文字盤(ダイヤル)、ムーブメントに分解できました。
プラスチック風防、ベゼル、ケース、裏蓋、文字盤、ムーブメント |
解説書を参照しながら分解、組み立てを行います。
クロノグラフの解説書 |
バルジュー23の解説書 |
ムーブメントを機械台にセットします。クロノグラフ調整ネジ(青い○)は外さないよう注意します。
バルジュー23 |
クロノグラフ調整ネジ |
まず、秒針の裏側のドライビング・ホイールを専用リムーバーで抜き取ります。軸がとても細く長いので慎重に行う必要がありますが、圧入されているこの歯車を垂直に抜き取るのは素人には難しいです。
ドライビング・ホイール |
ブリッジやハンマー |
クロノグラフ・ランナー、ミニッツレコーディング・ホイール、スライディングギア |
順次、クロノグラフのパーツを取り外していきます。概ねこの順番で問題ないはずです。
トランスミッション・ホイール、カップリングクラッチ周辺 |
オペレーティング・レバー類 |
ピラーホイール(コラム・ホイール) |
すべてのクロノグラフのパーツを取り外すと、通常の3針時計と同じです。
ノーマルなムーブメントになった状態 |
文字盤側から分解し、裏返して輪列とテンプを取り外します。
文字盤側の受けの取り外し |
輪列側の受けの取り外し |
地板 |
分解完了です。
バルジュー23をバラした写真 |
分解したパーツの汚れや古い潤滑油を落とします。ボールにはったベンジンに漬け、思い切って刷毛でゴシゴシ洗います。
セルベットとベンジンを入れたボール |
ゼンマイの入っている香箱はかなり汚れています。写真のS字型の長いバネが、取り出したゼンマイです。
香箱を分解 |
ゼンマイ |
MOEBIUSの潤滑油 |
ベンジンで古い潤滑油を落とし、サビやこびりついた汚れはヤスリやバフがけでキレイにします。
潤滑油を内壁に数箇所さし、手でゼンマイを香箱に巻き入れた後、香箱内部やゼンマイ、香箱芯に適量注油します。香箱真をゼンマイの中心に取り付けるのにはコツがいります。また、ゼンマイが動けるように、フタを香箱に押し込まないよう注意します。(参考:ゼンマイの仕組み)
香箱にはメービス(MOEBIUS)のD-5を使います。
キレイになったゼンマイと香箱。潤滑油をさしたところ。 |
組立完了。香箱芯周辺にも注油。枕木はヨウジ |
輪列を組みます。ガンギ車、四番車、三番車、二番車、香箱(一番車)を地板に乗せます。
輪列 |
クロノグラフのプレートも兼ねる大きな「受け」は、裏側に丸穴車とコハゼを取り付けるのが特徴的。事前に注油しておきます(青い矢印)。9020(粘度高め)と9010(軽め)使い分けます。
複数の歯車の軸をきちんと穴石に合わせるのは結構難しいです。また、コハゼをずらさないと固定することはできません(黄色い矢印)。
「受け」の裏側。 |
表から見たコハゼのレバー |
「受け」をネジ留めした後、それぞれの歯車の軸受けの穴石に注油します。裏側の穴石にも忘れずに行います。アンクルの爪石には拡散しにくい特別な油、メービス(MOEBIUS)9415をのせます。きわめて難しいので、本当はいけないのですが、取り付ける前に油を乗せました。取り付けた後、ガンギ車と回転させて油を馴染ませます。
オイラー |
文字盤側 |
アンクルのアップ |
輪列の組み立ては完了です。テンプは最後です。
輪列側 |
文字盤側 |
文字盤側を上にして、時刻調節、巻き上げ機構を組み立てます。
ここで、オシドリ(巻き芯のロックも兼ねる)を固定するネジを忘れていました(赤い矢印)。これは輪列側の「受け」と「地板」の間の取り付けておく必要があります。
改めて、文字盤側のパーツと組み立てていきます。パーツ同士が接触する部分に注油します(歯車の歯には注さない)。
オシドリ固定用のネジ |
カンヌキとツヅミ車、キチ車 |
小鉄車、日ノ裏車、ツツカナなど |
組みあがったら、巻き真(リューズ)を挿入し動作の確認をします。
リューズ操作の確認 |
最後にテンプを取り付けます。天真を慎重に地板の穴石に挿入します。
テンプ |
ゼンマイを巻き上げ、慣らし運転中。
稼動確認 |
いよいよクロノグラフのパーツを組み上げていきます。
ベンジンで洗浄 |
機械台にセット |
ベンジンでパーツを洗浄した後、最初はクロノグラフの中心、ピラーホイールを取り付けます。中心軸と下層の歯と上層のピラーに注油します。
ピラーホイール(コラムホイール) |
オペレーティング用パーツ |
オイラーとMOEBIUSの潤滑油 |
ここで、注油については、パーツごとに様々ですので、省略します。例えば、ハンマーは軸以外にプッシャーやブレーキレバー、スライディングギアと接触する部分に薄く注油します。
ブレーキレバー |
リセットハンマー |
分積算計ミニッツレコーディングホイールのブリッジ |
潤滑油をつけすぎないよう、組み立てていきます。同じくらいのサイズのネジがたくさんあるので、間違った場所につけないように注意します。また、クロノグラフ・ランナーとミニッツレコーディング・ホイールは中心軸がとても細長いので慎重に取り扱います。
スライディングギア、ブレークレバー |
トランスミッション・ホイール |
クロノグラフ・ランナーとミニッツレコーディング・ホイール |
伝達系、積算計のホイールをセット |
リセットハンマーとクロノグラフのブリッジ |
最後にドライビング・ホイールを取り付けます。この歯車はクロノグラフに動力を伝達するとても重要な歯車で、秒針の四番歯車の軸に圧入します。トランスミッション・ホイールと同じ高さに調整します。
ハンドプレスが便利 |
ドライビング・ホイール |
以上でクロノグラフ機構を含むムーブメントが完成です。
バルジュー23の完成 |
最後にゼンマイを巻き上げて、クロノグラフの動作がうまくいくかをテストします。止まったりする場合は以下の3つの調整ネジで調整します。
@ ドライビング・ホイールとトランスミッション・ホイールの噛み合わせ具合で、針飛び(浅い)や摩擦による停止(深い)がおきないよう調整 A トランスミッション・ホイールとクロノグラフ・ランナーの噛み合わせ具合で、スタート時の針の動きを調整 B クロノグラフ・ランナーとスライディング・ホイールの噛み合わせ具合で、分積算のタイミングを調整 |
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3箇所のクロノグラフ調整ネジ |
この後に、文字盤と針を付けた状態でもテストする必要があります。取り付けの不備や針同士の摩擦などで問題がおこる可能性があります。