神秘的なメカニズム、トゥールビヨントゥールビヨンとはコンプリケーション(超複雑機構)のひとつ、トゥールビヨン・エスケープメント。 懐中時計の時代、ポケットの中で常に同じ姿勢で動いていると、繊細なヒゲゼンマイが自らの重みで下にたわんでいました。高速で動くガンギ車に注油したオイルも偏ります。 1795年、アブラアン・ルイ・ブレゲは、定位置で振動するテンプと脱進機をまるごとキャリッジと呼ぶカゴに乗せて回転させてしまい、このような重力の影響や姿勢差、油のたまりを解消することを思いついたのです。(1801年に特許取得) その名前は、フランス語の「tourbillon:渦巻き」を意味します。 トゥールビヨンの構造トゥールビヨンの構造を普通の時計と比べてみます。 三番車によって、テンプやアンクル、ガンギ車が乗ったキャリッジ(青色部分)が回転します。ガンギ車の軸はキャリッジからはみ出していて、地板に固定された四番車の周りを噛み合いながら回転します。 ガンギ車が回るスピードはテンプによってコントロールされ、キャリッジを1分で1回転させるので、これが秒針がわりになるのです。(右の動画) トゥールビヨンを搭載した時計の構造通常の時計の構造テンプが文字盤から見えるだけでは、トゥールビヨンではありません。テンプ、アンクルとガンギ車の仕組みは、「調速機と脱進機 -時計の仕組み(3)- 」をご覧ください。 |
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様々なデザイン個性を決めるのがキャリッジのデザインです。 腕時計に搭載できるようになった80年代は、3本スポークのシンプルなもので、上下からしっかりブリッジで支える必要がありました。90年代になり、ブランパンやピアジェから上側にブリッジがないフライングトゥールビヨンが発表された頃から、独立時計師の独特な幾何学的な意匠や鳥をモチーフにキャリッジなど多彩になります。 最近は、クラシカルなブリッジタイプが多いです。高い技術を持つ独立時計師による、3次元回転の特殊なタイプも存在します。 価値現在、ヒゲゼンマイの材質には弾性のある特殊素材が使われ、精度は飛躍的に向上しました。姿勢が始終変化する腕時計でも、十分な精度が得られるようになったのです。 逆に、トゥールビヨンの複雑なメカニズムは重力の影響を受けやすいのが現状です。また、キャリッジを動かすためには普通の時計よりもトルクが必要で、精度を出すのは非常に難しいです。 実用的なメリットがないにもかかわらず、購入価格はマンション並なので、ステータスとしての意味合いが強いのですが、その魅力は複雑なメカニズムの動きと美しさにあります。 精度の要である調速機と脱進機を収納するキャリッジは、動き続けてもゆがみがないよう丈夫に作るだけでなく、時計の針を動かす小さなトルクでも回転するよう軽量でなければなりません。数の多い小さな部品を組み立てて精度調整できる時計師は数えるほどで、このメカニズムを実現することができるのは、高い技術力を持つ一部の超高級メゾン、専門工房に限られています。 実物を見れば、200年前の一人の天才の英知を強く感じることでしょう。 |
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