縦42mm/横20mm/14KGFケース |
趣のあるアールデコ調の文字盤にブレゲ数字インデックス、ブレゲハンド、スモール秒針 |
2代目キャリバー330/手巻き/17石 |
ラグ、革ベルトに続くゆるやかなカーブが美しいデザイン |
1930年代のグリュエン(GRUEN)社の「カーベックス(CURVEX)」です。
アンティークの手巻き角型時計の代表格といえます。古き良き時代の文字盤デザインもさることながら、やはり、大きくカーブしたフォルムが特徴です。
1935年に初期型モデル311が登場し、当時の細長い流線型のアール・デコ調デザインと、手首にフィットする実用性から、非常に人気を博したモデルです。多くのブランドがそのデザインを模倣する中、37年には更にカーブを増したモデル330を発表しました。なんと中身のムーブメントも湾曲しているのです。
ケースの製造は、アールデコデザインで有名なワッズワース社(Wadsworth)が担当。ウォルサム、エルジンといったアメリカ有名時計ブランドにも採用されていました。
ムーブメントのカーブ |
現代の多くの高級ブランドが手首にフィットするラウンド・フォルムを採用しますが、比べ物にならない当時のグリュエンのカーブです。やり過ぎの感もありますが、通は車の運転中に見やすいように、手首のサイド、親指の付け根に文字盤がくるように着けるそうです。
このような独創的な逸品が存在することが、アンティーク機械式時計の魅力です。
グリュエン社の販売拠点は主にアメリカ市場で、ケース生産、組み立てや調整はシンシナティで行われていました。しかし、心臓部のムーブメントはスイスのビエンヌ(Biel)の工房で開発されていました。
1930年当時、機械式時計が大量生産時代に突入し、グリュエン社の主なラインアップは、コストがかからず安く生産しやすいキャリバー400、411、500でした。
1935年、満を持して発表したカーベックスのオリジナルの縦長のキャリバー311は、キャリバー500をベースにビエンヌの工房で開発されたプレシジョン(高精度)モデルです。
裏蓋の刻印 |
1937年に新開発されたキャリバー330は、最も人気のあるムーブメントで、311の高品質をそのままに、カーブを更に増すことに成功しており、中央と両端の高さは5mmも違います。唯一ブリッジにCVURVEXの銘が刻まれている、まさにカーベックスのためのムーブメントだったのです。
40年代に入ると、アールデコの細長いデザインは時代遅れとなり、角型デザインのために正方形に近い形状のキャリバー440が開発されました。このキャリバーは大量生産に向いており、グリュエン社のフラッグシップとして10年間生産され続けました。
1950年に、440に替わり正方形の新キャリバー370が開発され、1954年に生産されました。生産終了後も、しばらくはカーベックスに搭載され続けました。その後、カーベックスは安いエボーシュを搭載し60年代なかばまで生産されていたようですが、1976年にグリュエン社が倒産し世の中から姿を消すこととなります。
グリュエンのカーベックスは、その後の腕時計のデザインに大きな影響を与えたことは言うまでもありません。
トノー型、角型のドレス・ウォッチが、腕にフィットするように優雅なカーブを描くのは、今やオーソドックスなデザインとなっています。フランク・ミュラーの「トノー・カーベックス」や、カルティエの「タンク・アメリカン」はその代表格でしょう。