手巻式ミリタリーの修理

Restoring the Hand Winding Military Watch

オリジナルのミリタリー・ウォッチの故障

2005年から使い続けている腕時計ですが、とうとうゼンマイが切れました。ゼンマイが切れるとリューズで巻き上げようとしても空回りするのです。ただし、コハゼが効かない場合も同じ症状になるので、実際には機械を見てみないと断定はできないです。
そもそもオーバーホールを先延ばしにしていたこともあり、この際、きれいにオーバーホールをします。

分解

分解して切れたゼンマイを取り出します。

元の腕時計 分解 ムーブメント
一番受け 切れたゼンマイ

このムーブメントは、直径25.60mm(11.5lines)のETA2801系ムーブメントです。厚みがあり頑丈で、テンワが非常に大きいので精度に安定性があります。自動巻きの2824系が最もメジャーですが、こちらは、手巻きの2804(日付機構は取り外し済み)です。

パーツは超音波洗浄器やハケを使ってベンジンで洗浄しておきます。
ただし、アンクルとテンプはすすぐ程度で、天真のホゾだけはキレイにします。

ゼンマイの収納

今回はちょっとだけゼンマイに注目してみます。

新しいゼンマイ 切れて汚れたゼンマイとの比較

新しいゼンマイは張りがあります。
ゼンマイ巻き器があると便利なのですが高価なので、手で巻きいれます。ゼンマイの外端を逆巻きに反り返るように香箱内壁に押し付け、両手指先で交互に右、左、右、左とスルスルと収めていきます。指サックはゼンマイに挟み込まれるので、十分に手の油を取って素手で行いました。

新しいゼンマイ 外端を香箱に

香箱芯の取り付けです。上手くゼンマイと芯を引っ掛けるのは、意外と難しい作業です。ピンセットで中心に収めてから、わずかにずらしつつピタッと引っ掛けます。

ほぼ収めた状態 香箱芯1 香箱芯2

ゼンマイの上下、隙間、それぞれに3回、十分にグリスを注油します。油はメービスの8200を使いました。最後に蓋をして、時計の動力源、香箱の完成です。

MOEBIUS 8200 黄色のオイラーで注油 香箱

ムーブメントの組み立て

香箱(一番車)からガンギ車まで組み立て、裏側の巻上げ機構を組み立てます。

輪列を配置 受けで固定

注油は、メービスのD-5、9020、9010を適宜使用しました。

香箱を挿入 一番受け、角穴、丸穴車を組み立て 巻き上げ機構

アンクルには爪石に9415を気持ち塗布してから取り付けました。ホゾには油はつけません。

アンクル テンプ

テンプまで取り付け終わったら、インカブロックに取り掛かります。インカブロックとは、枠に入った受け石を竪琴のような押さえバネで支える耐震装置です。極細の天真を衝撃から守ります。

インカブロック

まず、わずか1ミリ程の受け石の平らな面(光にかざすと平滑な面が判別できます)の真ん中に微量の9010を塗布し、上から枠をかぶせます。

受け石

この極小部品を裏返してテンプ受けに設置。上から押さえバネで固定してできあがりです。裏側のインカブロックも同じように設置します。

ケーシング

ムーブメントの文字盤を付け、ムーブメントリングをしっかりと固定。

文字板 ムーブメントリング

針をつけてから、ケースに収納します。

アンクル テンプ

完成

ドイツ製のNATO軍ストラップ・レザー仕様は、前回と同じくアンティークウォッチ・オンラインから購入。
フィットする場所と前後2箇所に穴をあけて、装着。

完成です。4年前の輝きを取り戻しました。なお、直径は39ミリと適度なサイズです。

フルに巻き上げた状態で歩度測定し、日差+20秒程度でざっくり調整しました。これから様子を見ながら微調整していきます。