会社の先輩から、教材もしくは実験台として供出していただいたシチズンの手巻き腕時計「ジュニア(Junior)」です。50年代の中三針の初期型モデルで、パラショック(耐震装置)を搭載しています。コンディションは主に以下です。
・ リューズ操作が硬く、ゼンマイを巻いても動かない
・ 文字盤の染みが目立ち、秒針が折れ曲がっている
・ ケース、リューズのサビが多く、風防ガラスも割れている
【注意事項】
あくまで趣味として公開しており、決して専門的な技術レベルではございません。日常的な使用範囲を超えた行為ですので、お使いの腕時計の修理、調整は専門の時計修理業者にご依頼ください。万一ご自身で行う場合は自己責任でお願いします。
マウスを重ねると完成写真に変わります
CITIZEN Junior (国産)/20ミクロンGPケース/径35mm/厚13mm/手巻き/Cal 2S/17石/18,000振動/パラショック耐震装置
ケースを分解し、文字盤、針、ムーブメントを取り外します。
おもて側 |
うら側 |
裏蓋を取りはずしたところ |
針は12時位置にそろえて、まとめて剣抜きで取り外します。ベゼルと裏側のネジをはずし、ムーブメントを文字盤ごと取り出します。コハゼをずらしゼンマイをゆっくり解放します。
文字盤を固定するサイドのネジ |
ゼンマイを解放する |
風防、ベゼル、ケース、裏蓋、文字盤(ダイヤル)、針、ムーブメントに分解できました。
裏蓋、ケース、ベゼル、風防(32.7mm)、針、文字盤、ムーブメント |
文字盤側(裏輪列といいます)を上にして機械台に固定します。まずは、リューズや巻上げ機構の周辺を分解します。
バネやネジは飛ばさないように注意します。
文字盤側 |
リューズ、ツヅミ車、キチ車、かんぬき、おしどり |
続いて、輪列、テンプ周辺を分解します。
輪列側 |
テンプと耐振装置 |
ブリッジを外したところ |
歯車を固定するブリッジ |
丸穴車、角穴車、コハゼ、一番受け |
歯車、アンクル、ガンギ車 |
分解したパーツはトレーに整理しておきます。
分解したムーブメント |
ベンジンでパーツを洗浄し、サビや汚れ、こびりついた古い油を取り除きます。アンクルは爪石の接着がゆるむので慎重に行います。
香箱も分解して中身のゼンマイもキレイにします。洗浄した後、香箱に手で巻き入れながら収納し、香箱の内壁、香箱真、ゼンマイに注油します。
取り出したゼンマイ |
香箱に収めたゼンマイ |
香箱 |
組み上げていきます。
地板に香箱を収納 |
歯車を重ねる |
ブリッジで固定 |
より複雑な裏輪列を組み立てます。各パーツの軸、パーツとパーツの接点に注油します。
文字盤側 |
巻き上げ機構を組む |
裏押さえで固定 |
歯車の軸をささえる上下(時計の表側、裏側)の穴石にも注油していきます。ガンギ車に受け石が付いて、当時のシチズンの品質の高さがうかがえます。また、テンプの耐震装置も特徴的で、受け石のバネではなく、スプリングバネに固定された穴石で衝撃を吸収する設計。Fabrique Ericmann社の「Shockresist」と同じ構造ですが、これがシチズンでは「パラショック」なのだと知りました。
ガンギ車の受け石 |
バネに固定された穴石 |
テンプの固定 |
ムーブメントの組み立てが完了です。厚みがありますが、表も裏もガッチリとした作りです。
完成したムーブメント |
ケースやリューズ、針などを再生します。洗浄、研磨した後、「めっき工房」で全体を金メッキコーティングします。
リューズ |
洗浄、研磨後のリューズ |
研磨、再メッキしたケース |
ひび割れたプラスティック風防は、新品のフランス製のVERLUXに交換します。安っぽい分厚い出っ張り感がなく、なめらかな良い形をしています。
古い風防と、ベゼルに固定した新しいプラ風防 |
折れた秒針は代用品を使います。塗料を落として研磨します。ゆがんだ分針と時針も整形して研磨します。
折れた秒針とスペアの針 |
ヨウジで研磨、整形 |
再生した針 |
ムーブメントに筒カナ、筒車、座金を付け、文字盤をかぶせ、ムーブメントの横の2箇所のネジで足を固定します。
ケースの表からムーブメントをおさめ、裏側から2箇所のネジで固定します。
ツツカナ、ツツ車 |
かぶせた文字盤 |
裏側からネジで固定するムーブメント |
針は、文字盤に接触しないよう、針どおしがぶつからないように慎重に取り付けます。
針のとりつけ |
とりあえず、ひととおり組みあがった時計です。
完成した時計 |
ただ、文字盤の腐食がひどい状態で、アンティークの良い味とはいえません。なんとかしたいものです。
賛否両論あると思いますが、依頼主と相談し文字盤交換を決断。
Yahoo!オークションに出品されていたジャンク品を競り落とし、落ち着いた雰囲気の文字盤を入手しました。
入手した文字板(右) |
かぶせた文字板 |
針つけ |
アンティーク時計の裏蓋の内側には時々過去に修理した人のサインがあります。古い時計だと何人ものサインが残されている場合もあります。
この時計にも日付印が押されていました。「東 重」の文字と「39.11.3」。昭和39年11月3日の「文化の日」に修理があがったのでしょう。
うらフタ |
最後に裏蓋を閉めて、出来上がりです。
完成した時計 |
最後に簡単に調整を行いました。
3姿勢で、ゼンマイをフルに巻いた状態で一日の誤差(日差)を計測しました。0秒〜45秒の範囲内と精度がとても良かったので、緩急針をいじらず、そのまま修理完了としました。時計の役割を考えれば、遅れるよりもやや進みぎみが良いと思います。竜頭下の姿勢(下げた腕に装着した状態)を含めるべきだったと後悔しましたが。
平置き |
横置き |
縦置き |
今回思いもかけず、半世紀も前のシチズンの手巻式時計に触れ、国産アンティークを見直す機会に恵まれました。
40年代から60年代の量産腕時計にはチープなイメージがありましたが、このシチズンはブリッジも厚く頑丈で、歯車の軸受けも品質が高いように思えました。レトロ感のあるデザインもとても魅力的です。
革ベルトを付けたシチズン・ジュニア |