漆の文字盤の腕時計を自作

機械式時計ワークショップ

完成図

蕎麦好きが高じて自分で蕎麦を打ち始めるように、いつかは時計師のようにオリジナルの時計を手作りしてみたくなるものです。ここでは無謀にも機械式の腕時計の自作に挑戦した過程を紹介します。

漆の黒文字盤のシンプルな全体像

シースルーバックと極太ベルト

デザイン

まずはどのような時計を作りたいかラフにデザインしました。文字盤のデザインや、ムーブメントに何を使うのか、何色の皮ベルトを合わせるのか等々。今回は以下をポイントにしました。

    ・ オーソドックスなデザイン

    ・ 自動巻きムーブメント

    ・ 漆などの工芸

材料と道具

必要なパーツを集めます。ケースにムーブメントがきちっと収まるか、針穴はムーブの針の軸とサイズ同じか、ベルトの幅はケースのラグの幅と同じか等、サイズが正しく合ってなくてはいけません。

ムーブメント

スイスETA社製キャリバー2824-2
3針(センターセコンド)/日付表示/自動巻き/毎時28,800振動/25石/インカブロック/直径25.60mm(11 1/2 ligne)/厚さ4.60mm/針軸0.90/1.50/0.25。
※金メッキされた特別仕様です。
ケース

36mm。ステンレススチール。クリスタルガラス。シースルーバック。
裏蓋とリューズ部分にはゴムのパッキンがあり日常生活防水仕様になってます。
文字盤

表面を剥がして、オリジナルのデザインにします。


スイス製の汎用の時針、分針、秒針。
ベルト

日本の馬具工房SOMES社のもので、職人による手縫いです。材質は英国製の18mm幅、厚さ4mmのブライドルレザーで、馬具用のバックルが使われています。

時計用の工具は以下のようなものです。こちらで説明しています。

漆塗りの文字盤作り

まずは、アラビア数字のプリントを耐水ペーパー(#600〜#1000)できれいにはがして下地を作ります。

ここでは漆の塗り方の詳細は省きますが、道具類は以下のようなものを使います。また、始める前にかぶれ対策のためにゴム手袋を必ずつけ、漆を乾燥させる室(ムロ)を準備しておきます。

  • 生漆(きうるし)
  • 黒漆
  • テレピン(漆の薄め液)
  • 漆刷毛
  • 漆の溶き皿(陶器)
  • 吉野紙(漆の拭き取り)
  • 耐水ペーパー(#1000)
  • ベンジン(漆の洗浄)

サーフェイサーや生漆で下地を作り、黒漆を繰り返し漆刷毛で薄く塗り重ねていきます。漆は1回塗るごとに室で一昼夜乾燥させ耐水ペーパーで研ぐ必要があるため、かなり手間がかかります。最低でも5、6回塗り重ねるのですが、時計の文字盤なので厚塗りは厳禁です。針が取り付けられなくなります。

最後は、プラモデル用のコンパウンド(みがき粉)で表面をツルツルに仕上げます。

螺鈿(らでん)細工

螺鈿(らでん)で文字盤のインデックスを作ることにします。螺鈿細工とは薄い板状の貝で漆器を装飾する工芸のことです。今回は青貝を使います。

1時から12時の分の11個(3時を除く)、青貝の薄板から切り出します。文字盤が直径が3cmなのでインデックスの大きさは大体2、3mmです。文字盤に貼り付けて乾いた後、上から全体を黒漆で塗ります。その際、貝と文字盤の隙間を埋めるように、刷毛でごしごし塗り込みました。

乾燥室で一昼夜乾燥した後で、耐水ペーパーで研ぎだし、仕上げに、コンパウンドでツルツルに磨き上げます。最後に極細筆でサインを入れて出来上がりです。

時計の組み立て

ムーブメントの表側に文字盤を取り付けます。文字盤の裏側の突起をムーブメントの両端の穴にはめ込んで固定します。次に、時針、分針の順番で、12時位置でまっすぐ重なるように、またぶつからないように並行に取り付けます。ここは神経を使います。最後に秒針を取り付けます。

リューズを抜いて、一式をケース内に組込み、ムーブメント固定用のリングで固定します。

ムーブメント出荷時点では巻真は長めなので、ケースに合う長さに調整する必要があります。一番奥まで巻真を差込み、無駄な長さを確認して切断します。

裏蓋をしめます。裏蓋には「はめ込み式」、「ネジ締め式」等がありますが、このケースは裏蓋全体をねじ込む「ねじ込み式」(スクリューバック)です。ケースオープナーでしっかり締めます。

ベルトの取り付け

最後は皮ベルトの取り付けです。皮ベルトを時計の装着するにはこのようなバネ棒が必要です。

バネ棒の片側だけラグ(ベルトが装着されるケースの腕の部分)に入れてベルトと一緒に親指で固定し、バネ棒用工具でもう一方の先端のバネを押さえ付けてラグに収め、微妙に穴をさぐるとカチッと収まります。

ちなみに、尾錠(金具)の付いているベルトが上、12時方向です。フォールディング式バックルの場合は逆ですが。

完成

ようやく完成です。この時計は自動巻きなので、腕につけて揺られているとゼンマイが勝手に巻かれます。時計を軽く振ってみて針がスーっと動き始める時は感慨深いものです。1日に1分くらい進んでしまいますが、実用には全く問題なく、毎日使っています。

漆の黒文字盤のシンプルな全体像

シースルーバックと極太ベルト

最後に

針の取り付けに一番苦労しました。しっかりはめ込み過ぎると文字盤に触れたり下の針にぶつかります。取り付けが浅いと針が回転すると外れます。微妙な調節が難しいです。 また、直径3cmの文字盤は思ったよりも小さく、細工が大変でした。

問題点はいくつもあります。巻き真がぜんまいの巻上げ機構にうまく噛み合っていません。 午後6時に日付が変わります。自動巻きローターに指紋がついています。針に細かい傷がついています。

今後は、もう少し専門的に踏み込んで、ムーブメントの分解、組み立て、注油の技術をつけることにします。