【自作の基礎】:パーツ集めから組み立てまで

DIY Making of The Original Automatic Watch

完成図

ブレゲ数字、ブレゲハンド、ギューシェ彫り、オニオンリューズ、直径37mm、個人的な好みを凝縮

オリジナルの腕時計を作ってみませんか

当サイトのWorkshopの基礎編として、腕時計が完成するまでの一連の流れを紹介します。
海外からの時計パーツの入手から、実際のコスト、組み立てや歩度調整など簡単にまとめてみました。

パーツの収集

漆文字盤の腕時計ミリタリーウォッチでも使っているスイスETA社のムーブメントを使います。汎用性が高く世界中に多種多様なパーツが出回っているので、好みのデザインの時計を作るには最適です。

パーツは海外から

パーツ探しは、eBayが良いでしょう。システムはYahooオークションと同様です。

  ・ 世界中の出品物から探せるので、商品バリエーションが無限
  ・ 出品者も専門ショップかマニアなので、意外に商品記述が親切で詳しい
  ・ オークション出品者のフィードバックという評価項目があるので、ある意味、信頼できる

郵便局の海外送金は手数料が2500円もかかり書類作成も面倒です。相手が受け取るまで2週間ぐらいかかります。そこで、クレジットカードで即時決済できるPaypalは必須です。金額過不足の時や万一のトラブルの時にも、スムーズな決済ができます。

ドイツからの出品物は品質が高いので、以下の単語を知っておくと便利です。

日本語 英語 ドイツ語
ムーブメント movement werk
ケース case gehäuse
文字盤 dial zifferblatt
hand zeiger

【検索のヒント】
検索ワードは、空白(and条件)、カンマ(or条件)、マイナス(not)、括弧()で絞込む。例: ETA (2801,2804,2824,2836)
「Search title and description」と「Locagtion : Worldwide」にチェックを入れて、世界中からもれなく検索。

自分の好みのパーツを集めるには根気が必要です。良い商品が出品されるまで、数ヶ月はじっくり待ちましょう。

集めたパーツ

ETA2824-2は数十年にわたり製造されてきた実績のあるムーブメントです。テンプは大きく、メンテナンスも容易、信頼性もあります。拡張性も高く、ドゥボア・デプラのクロノグラフモジュールが追加されたモデルもあります。

シルバー文字盤
ブレゲ数字、ギューシェ彫のダイヤル
各種文字盤
いろいろなダイヤル
ブレゲハンド
ブルースチール(のようなペイント)の針
ムーブメントETA2824-2
中3針/自動巻き/28,800振動/25石/
直径25.60mm(11 1/2 ligne)/厚4.60mm
アローハンド
ゴールドの針
皮ベルト
モレラートのクロコダイル
汎用ネジとクランプ
ムーブメントをケースに固定するために必要
ステンレスケース#2
金メッキのスタンダードなケース。裏蓋ははめ込み式のシースルーバック。
ステンレスケース#1
ドイツ製の高級ケース。シースルーの裏蓋はねじ込み式で防水性も高い。ムーブメントリング付き。

文字盤のサイズは25mm〜37mmまで多種多様です。小さいとケースに固定できず、大きいとケースに入りません。ケースのベゼルの内径、つまり文字盤が内側から見える部分よりも若干大きめのサイズが必要です。そこで、まずはケースを入手して、実際にサイズを測ってから、必要なサイズの文字盤を探します。針の長さもデザイン全体のバランスを考えます。

また、直径が同じムーブメントでも、厚みが違うとケースに入らない場合があります。ETA2892A2はETA2824と同じ径ですが、薄いので巻き芯の位置がずれてしまう可能性もあります。

「ムーブメント」、「ケース」、「文字盤」と「針」の順番に探す

今回のコスト(費用)

費用の合計です。高いです。。。

郵便局の海外送金は手数料が2500円と高いので、Paypalのクレジットカード決済は必須です。また、同じとことからまとめて購入すれば、送料を抑えることができます。ムーブメントも探せばもう少し安いところがあると思います。

パーツ 入手先 価格 送料 日本円換算
(2006年11月時点)
ムーブメント ETA2824 eBay(アメリカ) $72.00 $15.00 10,075円
防水ステンレスケース eBay(ドイツ) EUR 79.00 EUR 12.00 13,799円
シルバー文字盤 eBay(ドイツ) EUR 9.90 EUR 9.50 2,942円
ブレゲ針 Otto Frei(アメリカ) $5.20 $25.00 3,497円
クロコダイル皮ベルト モレラート(楽天) 10,500円 無し 10,500円
合計 40,813円

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ダイヤルと針の取り付け

いよいよ組み立てに入ります。

自動巻きローター(回転する重り)は真ん中のネジで取り外し、ゼンマイをゆるめます。リューズをつまみながら、もう一方の片手でコハゼのロックを外し(右写真)、リューズをゆっくり逆回転させます。

ローターを取り外したムーブメント 片手でリューズを固定してから行う コハゼのロックを解除したところ

コハゼを解除している時にリューズを手放すと、ゼンマイが一気に解放されムーブメントを傷つけます。

コハゼのロック解除中に、リューズを放してはいけません

続いて、文字盤を固定する2箇所の爪を解除します。

文字盤を固定するツメ カレンダー押さえリングとツツ車

カレンダー押さえリングとツツ車をムーブメントに付けた後、文字盤をかぶせます。裏返して、文字盤の足を固定します。文字盤は繊細なので、汚れや手の油が付かないように慎重に取り扱います。

文字盤の表面を素手でさわってはいけません
文字盤の足を固定

文字盤の取り付けが完了です。

文字盤

リューズを2段引いて、カレンダーの日付けが変わるところまで、回します。

時刻が進む方向に回す ブレゲハンド

針は重ならないように慎重に圧入します。時針と分針を12時の位置で正確に固定します。

鉢の取り付けが完了しました。

文字盤
3本の針の間、文字盤との間にスペースが必要

3本の針、文字盤は互いに接触すると傷ついたり、摩擦でどれか1本でも動けないと時計全体が止まってしまうので、正確に取り付けます。

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ケーシング

まずはケース内部の汚れをしっかり落とします。ベンジンで油汚れをキレイに落とした後、光に照らしたりキズミで確認しながら、ロディコで微細な糸くずやホコリ、チリを取り除きます。

ドイツ製の防水ステンレスケース ベンジン、ブロア(ちり吹き)、練り消しのようなロディコ、

リューズは、好みのオニオン型に変更します。巻き芯を保護する管が長いため、すき間が開かないように短く加工しました。

ケースに付属のリューズ フィットしないリューズ 長い管 金属ヤスリで削り、耐水ペーパーで研磨

ケースのムーブメントを収める前に巻き芯を外します。リューズをゼンマイを巻き上げるポジションにして、根元のボタンを軽く押して抜き出します。

日付けや時刻を調整する状態から抜いてしまうと、差し込むときにカンヌキが外れてしまい、文字盤針と針を取り外して、巻き上げ機構を組みなおさなくてはなりません。

巻き芯は押し込んだポジション(ゼンマイ巻上げ)から抜き出す
巻き芯を抜き出す ケースに収納

ムーブメントリングにムーブメントを固定します。

時計ムーブ用の汎用ネジ 2箇所を固定

ふたたび、巻き芯を差し込んで、余りの長さを確認します。長さを調節して、リューズをしっかり固定します。短くしすぎないように注意します。

ニッパーで切断 リューズと巻き芯

巻き芯の取り付けが完了しました。

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精度の調整

歩度測定

マイクロセットのウォッチタイマーは世界の時計マニア御用達ツールです。パソコンから時計の精度を測定することができます。

マイクロセット ウォッチタイマー(タイムグラファー) プロット画面

画面に斜めの平行線がプロットされます。この「傾き」が進みや遅れ(秒/日)で、「平行線の間隔」がビートエラー(ミリ秒)です。文字盤を上にした平置き、リューズ(3時)を下にした姿勢、縦置き(12時下)の3姿勢の精度を測ります。

姿勢 日差 片振り(ビートエラー)
平置き 29.6sec/day 4.0ms
3時下 27.8sec/day 4.0ms
12時下 27.7sec/day 5.0ms

片振り(ビートエラー)

ヒゲ持ちや緩急針を調整しやすいように、自動巻き機構をすべて取り外します。

まずは、ビートエラーを調整します。片振りともいい、心臓部のヒゲゼンマイが左右に均等に振れていない誤差のことです。

自動巻き機構のブリッジの固定ネジ ヒゲ持ち

ヒゲゼンマイを固定しているヒゲ持ちという部分を、ピンセットかツマヨウジで微妙にずらし、プロットされる「平行線の間隔」が狭くなれば成功です。

最初の5ミリ秒程度 1〜2ミリ秒 さらに微調整

縦の1目盛が2ミリ秒の縮尺でディスプレイ。一番右のプロットのように重なるぐらいまで調整すれば0.1〜0.3ミリ秒です。

緩急針は動かないので、日差を示す「傾き」は大きく変化してしまいますが、ここでは気にしません。

日差

続いて、時間の進み、遅れ、いわゆる日差を調整します。

振動するヒゲゼンマイの外周に接触している緩急針をずらします。中心部に近づけると進み、外端にずらすと遅れます。

-600秒程度 プラスにするために時計まわりにずらす 傾斜がゆるやかに -40秒

傾斜が平らになったら、最後に下の写真の緩急針の微調整ネジを「+」プラス方向にまわし、日差が数秒進む程度におさめます。

微調整 さらに微調整してプラスに補正
遅刻しないよう、どちらかというと進み気味に調整

ふたたび、3姿勢で精度を測った結果、以下のようになりました。

姿勢 日差 片振り(ビートエラー)
平置き 3.2sec/day 0.2ms
3時下 2.7sec/day 0.3ms
12時下 2.8sec/day 0.3ms

専門的なレベルの場合、5姿勢、6姿勢、温度差、巻き上げ状況の差異まで調べますが、日常的にはこのレベルで満足です。

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ケーシング#2

自動巻きのローターを中央のネジで固定します。

ローター 取り付け完了

シースルーの裏蓋を取り付けます。ゴム製のオーリング(ガスケット)にシリコンを塗り、ケースの裏側の溝に沿うように挿入します。

シースルーバックとOリング シリコン オーリングの取り付け

裏蓋はスクリューバック式(ねじ込み式)なので、ケースオープナーでしっかりとねじ込みます。ケースオープナーのツメはエッジが鋭いので、ケースを傷つけないようにビニールの上から挟み込みます。

明工舎(MKS)のケースオープナー 取り付け完了

本体は完成です。

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ベルトの装着

革ベルトを装着します。イタリア、モレラートのクロコダイル皮で針の色に合わせたダークブルーを選びました。

このケースはバネ棒ではなく頑丈なビス留め式で、見た目も大きめのラグが高級感を出しています。

イタリアのモレラート、AMADEUS ラグ ネジ止め

このタイプは両方からドライバーで固定しないといけないので、ちょっと難しいです。

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完成

完成です。シンプルなスタイル、操作しやすい大き目のリューズ、がっしりとしたラグ。

直径37mmはスタンダードなサイズ
ブレゲ針、ブレゲ数字、ギューシェ文字盤、オニオン型リューズ
がっちりとしたサイドビューを見せるドイツ製ケース。シースルーバック。

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