さまざまな緩急針の図解

時計のしくみ(6)

調速機と脱進機」は、機械式時計が一定の速度で時を刻むメカニズムです。

その中で心臓部にあたるのがテンプです。この振り子のように振動するテンプの周期を、精密に調整するのが緩急針なのです。

(緩急針を使わないフリースプラングの解説はこちら

緩急針の概要

下図は、シンプルな緩急装置のサンプルです。


ヒゲゼンマイの外端は、ヒゲ持ちで固定され、中心寄りにヒゲ棒が接触しています。
この位置を緩急針で左右に調整することで、ヒゲゼンマイの有効長さが規制される仕組みです。

ヒゲゼンマイの有効長が短くなれば、テンプの振動がわずかに速くなり、進み気味になります。逆に長くすれば遅れ気味になります。

このように時計の精度を微調整する仕組みを緩急針調整装置といいます。

エタクロン

ETACRON

現在、もっともポピュラーな緩急装置。

ETA社のエボーシェに採用される事実上の業界標準。
偏心ネジで微調整する緩急針は従来方式(上図)よりも安定性が高い。
ヒゲ持ちを動かしてビートエラー(片振り)も調整することができ、さらにヒゲ棒とヒゲ受けの保持する頭をねじることで、ヒゲ棒の間隔(アオリ)も調整できる。

柔軟性の高い装置だが、長期安定性に欠けるとされている。

調整の詳細は、「マイクロセット・ウォッチ・タイマーで精度調整

トリオビス緩急微調整装置

Trio-vis (Spirofin) fine adjustment

高級機に採用される緩急装置。

基本機能はエタクロンと同様だが、緩急針の微調整に特徴がある。
ヒゲ持ちの脇に付いた微調整ネジを回すことで、より微妙な調整が可能。調整制度や長期間の安定性はエタクロンよりも高い。

緩急針体がヒゲ持ちの下に配置され、構造はエタクロンの逆。

採用する時計メーカーとしては、IWC、ジャガー・ルクルト、ノモスなど。
現在、緩急針を持たないフリースプラング方式に移行するメーカーが多く、採用するメーカーも少なくなってきている。

スワンネック緩急針

Swanneck


見た目が美しいため、クラシカルな高級モデルに採用されることが多い。

バネで押さえつけられた緩急針をもう一方からネジで調整する、安定性の高い装置。バネの形状からスワンネックと呼ばれる。

ミューレ・グラスヒュッテ(ドイツ)が特許を取得したウッドペッカー・レギュレーターも同様の仕組み。


更に、ブレゲ巻上げヒゲゼンマイや、そら豆型(腎臓型)のプレートで挟み込んだ可動式のヒゲ持ちを備えたものは、超高級ブランドでしか見られない仕様。仕上げも完璧であれば、ジュネーブシール・レベル

フリースプラングと緩急針比較

フリースプラングと緩急針方式のメリット、デメリットの比較です。

   < 長所、短所 >

種類 フリースプラング 緩急針
メリット 高い精度を安定的に維持できる
ヒゲゼンマイの耐久性が高い
調整の範囲が広い
デメリット 調整の範囲が狭い
精度の高い部品が必要
調整に特殊工具が必要
精度維持の調整が難しい
緩急針との摩擦によりヒゲゼンマイの耐久性が劣る