オメガで最も歴史のあるダイバーズウォッチ、シーマスター。機械式時計黄金期、50年代のモデルです。防水性の高いワンピースケースを採用し、ムーブメントは自動巻きの名機キャリバー562です。
腕時計の風防ガラスやブレスには、何十年にもわたる持ち主の歴史が刻み込まれています。会社の先輩からの預かり物です。
【注意事項】
あくまで趣味として公開しており、決して専門的な技術レベルではございません。日常的な使用範囲を超えた行為ですので、お使いの腕時計の修理、調整は専門の時計修理業者にご依頼ください。万一ご自身で行う場合は自己責任でお願いします。
OMEGA Seamaster(スイス製)/ステンレスケース/径34mm/厚10.3mm/自動巻き/Cal 562/24石/18,000振動
・リューズの巻き上げが非常に固い
・時々止まる。動作が不安定
・風防ガラスがボロボロ
・風防ガラス周辺やブレスの汚れ
普通は裏蓋からこじ開けますが、ワンピース構造の場合は、まずリューズをペンチで抜き取ります。ベゼルを外してムーブメントのロックをずらすと、文字盤ごとムーブメントを取り出せます。
裏蓋と一体化したワンピースケース | リューズの抜き取り | ムーブメントのロック |
50年前とは思えないほどコンディションの良いダイヤルとムーブメントが現れました。さすが機密性の高いシーマスターならでは。
キャリバー562は自動巻きの名機で、頑丈なブリッジとスワンネック緩急針を備えています。
アップライトのバーインデックス、ラウンド文字盤 | キャリバー562、24石自動巻き |
風防ベゼル、ケース、文字盤(ダイヤル)、ムーブメントに分解できました。
ネジの締め付けがとても固く、ドライバーの刃が立たず一時は分解をあきらめましたが、刃先を太めに研いで何度かトライしたところ、なんとか分解が完了。
ねじ切れたドライバーの刃先 | 輪列を取り外した地板 | 自動巻き機構 |
分解の手順はコンステレーションとまったく同じなので、そちらを参照してください。
分解されたキャリバー562 |
部品はベンジンで洗浄します。超音波洗浄器はまとめて洗浄できるので非常に便利。ゼンマイ香箱や巻上げ機構は油汚れがしつこいので、刷毛でゴシゴシ落とします。自動巻き機構の歯車が重たく感じたので、こちらも念入りに。
汚れた油まみれのゼンマイ | 洗浄後のゼンマイと香箱 | 超音波洗浄器 |
こんなに汚れていては、巻き上げが固いのも無理はないでしょう。
ゼンマイを手で巻きいれ、グリスを付けて香箱を作ります。
ゼンマイの収納 | 香箱に収納したゼンマイ | 香箱を地板に収納 |
表輪列を組み上げ、裏側の巻上げ機構、カレンダー機構を取り付けます。
輪列 | カレンダー機構 | 自動巻き機構 |
完全にキレイに生まれ変わったキャリバー562。
組み上げ完了 |
テスト稼動させたところ、テンプが少し振れるだけで止まってしまいました。よくよく見ると、ゼンマイを巻き上げたそばから、ほどけていることが判明。
戻らないコハゼ | 問題のコハゼバネ(右) |
コハゼバネの先端がコハゼから外れてしまうのが原因。以前からの症状もこれが原因だったかもしれません。
ワンピースケースなので、ケースに収納してしまうと調整できなくなってしまうので、ここで調整します。
世界中の時計マニア御用達のアメリカ製マイクロセット・ウォッチ・タイマー(MicroSet Watch Timer)を使います。
オーバーホール前 | オーバーホール & 調整後 | タイムグラファーMicroset |
フルに巻き上げた状態で計測した結果は以下のとおりです。
一日に数分遅れるレベルだったものが、10秒未満の進みに改善。テンプの片振り(ビートエラー)も大幅に減らすことに成功しました。
姿勢 | 分解前 | 調整後 | ||
秒/日 | 片振り | 秒/日 | 片振り | |
平置き(文字盤上) | -98.8秒 | 9.7ms | +7.5秒 | 1.1ms |
12時下(縦位置) | -194.4秒 | 11.4ms | +5.2秒 | 0.6ms |
3時下(リューズ下) | -110.2秒 | 10.2ms | +1.2秒 | 0.2ms |
針もキレイに磨いた後、取り付けます。
サビ付いた針 | 研磨した後の針 | 針付け台(ハンドプレス) |
インデックスに当たらないよう、また針が重ならないように細心の注意を払います。
時計の顔が出来上がる針付けは、組み立て作業の醍醐味です。
ケースに固定します。もちろん、ケースは隅々の汚れやサビを削り落とし、外装は軽く研磨してキレイにします。
ここで、新しいオメガ純正のプラスティック風防の登場です。真ん中にはオメガの刻印が透かして見えます。
オメガ純正の風防 | オメガの透かしマーク |
超音波洗浄器でクリーニングしたブレスを装着すれば完成。中身も外装も生まれ変わりました。
ゼンマイの手巻きも柔らかくなり、問題ない精度に回復。何十年経った今でも驚異的な精度を出せるキャリバー562のパフォーマンスには驚きです。